YaleにはMBAと他スクールとの様々なJoint Degree Programがありますが、そのプログラムの詳細を把握しにくいのが現状です。MBAやMPHといった個別プログラムの情報は各スクールのホームページから入手可能ですが、Joint Degreeとなった際にプログラムとしてどのような違いが生じるのかといった点はあまり紹介されておらず、プログラム選択時の意思決定の質の低下や予想していなかった入学後の不利益に繋がっています。本稿では、MBA/MPHプログラムの在籍経験を基に、MBA/MPHと単一MBAプログラムとの違い・注意すべき点などをまとめ、YaleのJoint Degree Programを検討する方の参考になることを目的としています。(個別プログラムの詳細は別ソースを参照して頂くこととします。また、MBA/MPHの経験を基に記載しているため、他のJoint Degree Programでは事情が異なる可能性がある点はご注意ください)
YaleにはMBA/MPHプログラムとして2年制・3年制の2種類があります。それぞれの概要は下記の通りです。両プログラムとも一学年に数人ほどいます。ちなみに、下記の通りプログラムの開始時期自体が異なるため、途中でプログラムの切り替えはできません。
Yaleの場合、Joint Degree Programとして入学するには個別に両スクールに合格する必要があります。3年制の場合、片方のプログラムに入学した後に1年目にもう片方のプログラムにアプライして合格すればJoint Degreeとして在籍することができますが、2年制は両プログラムとも1年目に開始(≒所属)するため、同年に合格する必要があります。
MBAとMPHで出願時期が異なることに加えて、エッセイの内容も異なるため、準備をより計画的に行う必要があります。一方、GMAT/GREのスコアや推薦状は使い回せる部分も多いです。MBAのRound 1で出願ができれば、MBAの面接後にMPHの準備をする形で、比較的スムーズかとは思います。Round 2の出願を考える場合は、スケジュールを含めて工夫が必要になると思います。
まず、MBAプログラムでは、入学時に割り振られるポイントを使って履修科目を競り落とすAuctionシステムがあります。この割り振られるポイントは単一MBAプログラムの学生は1100ポイントに対して、Joint Degreeの学生は600ポイントです。これは必要単位数が少ないことを根拠としています。しかし、この総ポイントが少ないことによりJoint Degreeの学生は実質的に取ることができない授業があります。その最たるものがInternational Experience (IE)です。(IE自体の説明は他に譲ります。)人気のIEにおいてはオークションを通じて席を確保するためには600ポイント以上が必要となることもあり、オークション前から実質取れないIEが存在するということなります。ただ、人気のIEは韓国やブータンといった日本人的には比較的魅力的ではないような気もするので、日本人としては大きな問題ではないかもしれません。ちなみにポイントに差がある本制度は長らく問題視されつつも、公平性の議論にいつまでも決着がつかず、棚上げされ続けているような状況です。
次に、履修登録方法の全体像を把握している人が大学内に存在しません。各スクールのRegistrarはいますが、Joint Degree Program担当の人がいないためにこのような事態が生じています。例えば、MPH所属の学期時にMBAの科目を履修する方法を双方のRegistrarに問い合わせた際には、それぞれのRegistrarが「もう片方のRegistrarに問い合わせてください」と返信してきて、たらい回し状態となりました。結局は、両Registrarをメールに入れ直接やり取りしてもらうことで解決しましたが、この一件は、プログラムの全体像を把握している人が学校側に必ずしもいないというリスクを示しており、卒業要件なども異なる中で、それらを学生自身が把握するように努めなければいけないということです。不明点がある際には、問い合わせてRegistrar側の言質を取っておき、間違っていた際に先方の責任にできるようにしておくのが良いと思います(編集者注:経験上、米国では先方に責任がある場合は、後で問題が起こっても特別措置を取ってくれる場合が多いです)。
更に、各スクールの必修科目に内容が重複する科目が含まれています。例えば、MPHにおけるBiostatistics in Public HealthとMBAにおけるProbability Modeling & Statisticsの統計に関する内容は重複が多いです。バカ高い学費を払わされているにも関わらず基礎的な内容に時間を使われているとも言えますが、共通する内容を復習と(好意的に)捉えることもできますので、この辺りは好みだと思います。カリキュラム上の「ダブり」は学内で議論されている問題なので、今後変更となる可能性が高いです。
逆にJoint Degree Programならではのメリットもあります。まず、MBAの人気授業を他スクールの学生として受講することで、上述のオークションのポイントを消化しなくてもよい点があります。MPH所属時にもMBAの授業を取ることができますが、それはMPHの学生として受講できるため、(授業にも依りますが)MBAのオークションのポイントを使う必要がありません。その代わりにアプリケーションの提出・審査等、別途選抜はあります。オークションのシステム自体も複雑ですが、所属スクールが変化するJoint Degreeの学生は輪をかけて履修に関するシステムが複雑です。分からないことは細かい点も含めてRegistrarに問い合わせて情報収集することで、自分にとって有利に科目選択を進めることが重要です。
また、両スクールのリソース・ネットワークを活用しやすくなる点もメリットです。例えば、各スクールのキャリアセンターを利用することで、幅広いポジションの機会を知ることができます。Public Healthに関連したFellowship ProgramはMPHの学生向けのメーリングリストには回ってきますが、MBAの学生には回ってきません。MBAの学生が応募できないというポジション自体はほぼないと思いますが、受動的に入ってくる情報が増えるため、「見落とし」が少なくなります。逆にMBAの学生だから入手できる情報・応募できるポジションもあります。リソース・ネットワークを活用しやすくなるメリットの一例としてインターン探し・就職活動を紹介させて頂きました。
本稿では、個別プログラムの詳細な内容ではなく、公開情報からは分からないJoint Degree Programの概要や制度上の欠陥並びにメリットを中心に解説しました。Joint Degree ProgramはInterdisciplinary Learningを重視するというYaleの考えを体現しており良いこととは思いますが、その運用は全く整流化されておらず、学生の不利益に繋がりかねない危なっかしい点があります。それらを事前に念頭に置くことが、自らの利益を自ら守ると共にJoint Degree Programならではのメリットを享受することに繋がると思います。
受験いただけることを心待ちにしております。がんばってください。